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2018-09-26

シルク制作日記2 勝手にオリンピック

 

 

鳩棲舎の舎員、清野ちさとがお送りする、ゆるーい制作日記のページです。

 

商品や作品がどのように作られているのか、

 

なんとなーくわかります。

 

 

 

鳩棲舎が大好きだって言うそこの君と、

 

暇で暇でしょうがない、っていう君にオススメの記事です!

 

今回は「2019年カレンダー」の表紙の制作、後編です。

 

前編を読んでない君は、ぜひ、よんでみてくれたまえ。)

 


 

今回のカレンダー制作では、全部で375枚の表紙を刷りました。

 

当初「刷り」の作業を甘く見ていたのですが、

 

やってみたら、私にとっては、ほぼ「スポーツ」。

 

 

にわかアスリートとして走り抜けたたたかいのきろくを、

 

すこしでもお楽しみいただければ幸いです。

 

 

今回は表紙に2色の色を使ったので、版を2枚使いました。

 

後から刷った「赤」の版のほうで、ご紹介します。

 

 


 

 

1 部屋の大掃除

 

 

 

シルクスクリーン(略してシルクと呼んでね)で刷った作品は、

 

本来、乾燥棚という、

 

絵をおくための専用の棚みたいなやつに入れるのがラクラクなんですが・・・。

 

(図工室とかにあるやつね。)

 

 

 

ほしいな〜。買ってよー!

 

何言ってんの!置き場所がないでしょう。

 

それにうちはお金がないんだし、買・え・ま・せ・ん!

 

えーっ?他の工房とかにはあるよ〜

 

よそはよそ!ウチはウチ!

 

とりあえず床に置くのよ。

 

ふぇーい・・・。

 

 

 

脳内ママに言いくるめられたので、

 

刷りの前には大掃除をして、

 

作品にごみやホコリがつかないようにします。

 

 

 

友だちが来る前のように、床の水拭きなどをして、

 

(意味もなく洗面台なども磨き、)

 

家の中はピカピカになりました!

 

たまにシルクをやるようにすると、

 

部屋の中がきれいになって良いかもしれません。

 

 

 

 

2 道具の準備

 

 

シルクでは、

 

刷り始めてからの「ゆっくり」が許されません。

 

 

 

インクは容器から出した瞬間、どんどん乾き始めます。

 

時間が経ってくると、

 

メッシュの中にインクがつまりやすくなって、

 

絵柄が鮮明に出なくなってしまうのです。

 

 

 

シルクに使うたくさんの道具たちです。

 

 

 

整理整頓が苦手なので、たまにうまくできると、

 

こうして見せびらかして、鼻の穴をふくらませるのを趣味としています。

 

「こんな風にトレーなどにまとめておくと、とても準備が楽なんですよね。」

 

たいていみんな優しいので、ほほえんで「すごいね」と言ってくれます。

 

 

 

 

3 版の固定

 

 

前編でつくった版を、

 

専用の蝶番(ちょうつがい)でテーブルに固定します。

 

版の右側に蝶番がついているのが見えますか?

 

 

 

これで版を上げ下げすることができるようになります。

 

版の下に作品を置きます。

 

 

 

まあ、よくわかんないですよね。

 

大丈夫です、次に行きましょう!

 

 

 

 

4 インクのねりねり

 

 

シルクに使うインクはさまざまな種類があり、

 

主に油性と水性があります。

 

水性は扱いやすく、学校の授業などでも使います。

 

うちでは主に油性のインクを使っています。

 

 

 

いいところは、仕上がりに独特のつやがあり、とても美しいところです。

 

完成したものを触ってみると、少し立体感があり、

 

手作りとは思えない美しい製品になります。

 

 

 

悪いところは、扱いにくいところです。

 

水で洗い流せないので、

 

片付けには専用の溶剤などを大量に使用しなければいけません。

 

 

 

油性のインクや専用の溶剤、全てに共通している特徴として

 

「これ、まともに吸ったら絶対寿命縮まるでしょ!」という

 

ザ・有害な溶剤の匂いがします。

 

 

 

 

というわけで、重装備で臨みます。

 

人生初の防毒マスクです。

 

本格です。

 

私もやっと本格が似合う大人の女性になりました。

 

 

ちなみに、右手に持っているのはお好み焼き用のヘラです。

 

インクをねるのに、使いやすいです。

 

 

 

いよいよ色を作っていきます。

 

インクの缶を開ける、それは時間との闘いが始まる合図です。

 

 

 

 

「2019」の文字は赤。

 

でも、インクの缶からそのまま出した「赤」じゃ、

 

しっくりきません。

 

 

 

カレンダーのイメージとして、

 

部屋の雰囲気は明るくなるけれど、少し落ち着いた雰囲気をもつ、

 

そんな「赤」を目指しました。(真面目か)

 

5色のインクを使います。「てり」が素晴らしい。

 

 

 

色見本を見ながら手早くねりねりしていきます。

 

このとき、サーティーワンアイスクリーム「ストロベリーチーズケーキ」を思い出しましたが、

 

匂いは強烈です。

 

 

 

カレンダー本体のイラスト、色見本との兼ね合いを見て色味を微調整します。

 

なめらかなつやが出るまで、ねり上げます。

 

(この言い方おいしそうですね。)

 

 

 

ねったインクに、

 

乾燥を遅らせたり、薄めて扱いやすくしたりする溶剤を入れて、完成です。

 

すこしくすんだ桃色のような、とってもいい色ができました!!

 

 

 

 

5 位置決め

 

 

ここで、刷りでは最も大切な

 

「刷るためのフィルムを、どこに置くか決めるための目安をつける」

 

という作業をします。

 

 

 

本当に大事なんですけど、地味だし、

 

なんせフォトジェニックじゃないので、涙をのんで割愛します。

 

大切、そして、面白くない。

 

こういう作業ってありますよね。

 

 

 

 

6 刷り

 

 

刷りの作業を2人でやる場合、

 

一方が刷り、一方が作品を乾かすために並べる係にすると、

 

スムーズに運びます。

 

 

 

今回、舎員Kが刷る係、私は並べる係を担当しました。

 

舎員Kは経験者でもあり、刷りが抜群に上手です。

 

 

 

刷っている様子を、動画でご覧いただくと、わかりやすいと思います。

 

作業用にかけていたゲーム音楽のサントラ(MOTHER2)が流れています。

 

 

 

私は刷り上がった作品を抜き取り、床に並べていきます。

 

しかし、部屋は狭いので置ける場所は限られています。

 

作品が重ならないように、しかしできるだけぎっちりとたくさん並べるというのは、

 

とても難しい作業でした。

 

 

 

作品を運ぶときの移動はとにかく速く。

 

刷るスピードに合わせたとき、のんびり歩いていては時間のロスが出てしまいます。

 

しかしホコリが立たないように、すり足で。

 

 

 

しかし置くときはていねいに。

 

乱暴に置こうとすると、風でフィルムが飛んだりするので、

 

ゆっくりとしゃがんで静かに置きます。

 

 

 

ぎっちりと詰めて置く。

 

テトリスのようなものです。

 

 

 

近所のスーパーで働く、すごく速いけど丁寧なレジの人を目指しました。

 

商品をカゴからカゴへ移すときはめちゃくちゃ速いんですけど、

 

商品を置くときはとても丁寧で、

 

重いものはカゴの下の方、つぶれやすいものをカゴの上の方に置いてくれる、あの人のことを。

 

 

 

もはや知力・体力を使うスポーツです。

 

「制限時間内に一番多く、しかも美しく作品を置けた人が優勝」という種目、

 

いかがでしょうか。

 

 

 

深夜までこの作業を繰り返していると、体力は限界だし、意識も朦朧としてきます。

 

足がもつれて転んだり、フィルムを間違って重ねたりして、

 

無駄になったフィルムが結構ありました。

 

このことから、次の教訓を得ました。

 

 

 

【シルクを刷るときの3か条】

 

一.よく眠ること。

 

一.準備体操をしっかりしておくこと。

 

一.無理をしないこと。

 

 

 

からだの声を聴くことは、よい作品につながります。

 

いいこと言った!

 

 

 

150枚くらい刷ったところで、

 

重大なミスに気づきました。

 

「2019」の文字が、本来あるべきところから大幅にずれているのです!!

 

 

 

使い物にならなくなったフィルムは10枚ちかくありました。

 

下の写真の、左が正しい位置のもの、右がずれてしまったものです。

 

なぜに?位置合わせはうまくいっていたのに!

 

この日は作業を断念しました。

 

 

 

一晩考えた結果、理由がわかりました。

 

当初、下の写真の、Aの向きで刷った後、Bの向きで刷っていました。

 

ものすごく強い力を入れて刷るので、

 

Bの向きで刷ったときに、蝶番がすこしずつずれてくることがわかりました。

 

 

 

蝶番は横の向きにとても弱いのです。

 

 

蝶番の下にゴム板を入れたり、

 

横に動かす力を加えないようにして臨んでみたら、見事うまくいきました!

 

湧き上がる歓声。

 

 

 

「やりましたね!!」

 

「よし、このままいこう。いけるよ!」

 

「はい!いきましょう!」

 

チームの成功を願い、心をひとつにします。

 

 

 

予期せぬ「ずれ」の克服を追い風に、

 

にわかアスリートたちは第2試合に突入。

 

 

 

刷る。並べる。刷る。並べる。

 

ようやく、ゴールが見えてきました。

 

 

 

そして無事、全ての枚数をクリアすることができました!

 

 

 

「みんなー!ありがとーーー!!」

 

「皆さんの声援があったから、私はいまここにいるのです。

 

応援してくださったみなさんと、友だち、チームのみんな、

 

それから家族に感謝したいです。

 

日本に帰ったら、ですか?

 

白いごはんと、お味噌汁が飲みたいですね笑」

 

 

 

という気分。

 

ソファを利用してつくった特製乾燥棚。

 

 

家中にまっ赤な「2019」が並んでいるので、

 

「2019」が襲ってきたのではないかとか、

 

2019年に何か起こるのではないかとか、

 

ここは私の家ではないのではないかという

 

妄想にとりつかれました。

 

 

 

夜中の3時にこんな光景を見ると、本当にそう思うんですよ。

 

アーティストとしては非常にありがたいです。

 

場を芸術そのものにするみたいなアートのジャンルもありますからね。

 

自らの家を、侵食された場所として感じる新体験ができました。

 

 

 

乾かし始めてから1日は置いておかないといけないので、

 

しばらくは匂いがきついですし、作品があるのでなかなか布団がしけません。

 

 

 

めずらしく近所の「やよい軒」で外食したり、フローリングの床で仮眠をとったりと、

 

完全に非日常の数日間でした。

 

大の大人でも、こんな文化祭みたいなノリが楽しいんだよなあ。

 

 


 

 

シルクスクリーンの一番のメインである、「刷り」の作業が終わりました。

 

私はしばらく筋肉痛に、舎員Kは腰痛になりましたが、

 

高校の体育祭の後のような、爽快さがありました。

 

 

 

工程は多く大変ですが、

 

刷り上がっていくときは、完成へガーーーーーツと一気に向かっていきます。

 

一度これを経験すると、また次もやってみたくなります。

 

シルクスクリーンの楽しさを、作品を通して伝えていけたらいいなあ。

 

 

 

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